NintendoDS mk2 - ニンテンドーDSの参加型レビューサイト

GOOD!

99話中50話ほど読んでプレイを断念した、その時点での感想である。

・全体のコンセプト。ゲーム性を一切排除し、プレイヤーに合わせたショートストーリーを選んで、読んでもらうことだけを目的とした作品。このような発想は今までになかったもので、将来的な発展の余地を感じさせる。

・世界観。このゲームでは、プレイヤーは「涙の店」で「マスター」から「ナミダノモト」を用意してもらい、そのランプに火を点けることで物語が始まるという流れになっている。この額縁部分の、存在感がありながらも押し付けがましくないというバランス感覚が見事。また、店の内装や「ナミダノモト」などの、柔らかく落ち着いた雰囲気を漂わせるビジュアル面も秀逸だった。

BAD/REQUEST

・ショートストーリーのバリエーションの乏しさ。依頼の際にわざわざ制限が設けられたのか、それとも執筆者がことごとく想像力を欠いていたのかは分からないが、ほとんどの作品が現代の日本を舞台としており、さらに「親しい人（ペット）の死」を初めとしたお約束の展開が多用される。そのため、数話読んだ時点で早くもうんざりしてきた。過去の時代や海外で展開される物語も用意するなど、いくらでも幅の広げようはあったはずなのに、なぜそうしなかったのか疑問でならない。

・個々のショートストーリーのクオリティの低さ。文章がこなれていない、物語の焦点が定まっていない、描写が不自然、前後に矛盾があるなどの問題点のオンパレードで、感動するどころか物語を味わうことすらできない。「波田美栄」シリーズのように比較的読ませるレベルの作品でさえ、主人公のあまりに自己中心的な性格にうんざりさせられることがある。映像作品などと違って文章の占める比重が非常に高いのだから、個々の作品の短所を洗い出したうえで、もう少しきちんと練り込んでほしかった。

・ショートストーリー部分が自動進行であること。文章の表示方法や音楽との同期によって盛り上げようとしているのはわかる。しかし、自分のペースで読み進められないから、どうしても束縛されているようなわずらわしさが感じられるし、表示時間が長いせいでテキストの稚拙さも余計に目についてしまう。マニュアル進行か、せめて速度調整のオプションさえあれば、私もなんとか99話まで付き合えたと思うのだが。

・「なみだのソムリエシステム」。プレイヤーに質問をしていくことでその特性を学習し、最適な物語を提供するという触れ込みだが、「あなたは○○な人と判断したので××を読んでもらいました」といった情報開示が一切なされないので、ちゃんと機能しているのかどうか見えてこない。むしろ、冒頭で「ペット飼育経験あり」と答えるとしばらくの間ペットものが連発されるなど、逆効果になっているようにすら感じられる。

・感想入力機能。文字の認識に問題があるのか、ときどきタッチスクリーンが反応しないことがあって、テンポよく書きすすめられない（DS本体の不具合でないことはピクトチャットで確認している）。また、0（ゼロ）とO（オー）のように、ゲームのフォント上で酷似している文字が候補として表示されたとき、それを区別する方法がない。

・タッチペンが必須であること。感想入力以外はタッチペンを使用する必然性はないし、ストーリー鑑賞中もタッチペンはしまうことになるわけだから、ボタン操作にも対応しておいてほしかった。

・音楽。個々の曲自体は悪くないと思うが、曲調がみな似通っている上に曲数も限られているので、これもまた作品全体のワンパターン感を高めてしまっている。

COMMENT

これほど「仏作って魂入れず」という言葉の似合う作品はない。ゲームのコンセプトは新鮮で、設定やビジュアル面でも非凡なセンスを発揮しながら、惜しむらくは全体の根幹であるショートストーリーに、読み手の心を動かすだけの力が備わっていなかった。スタッフが、自分の作っている作品を客観視できずそのことに気付かなかったのか、それとも「泣くことを求める客なんて、この程度で十分」と高をくくっていたのか、いずれにせよ非常に残念なことである。

とはいえ、人間が涙を流すという行為は、感情の発露の中でもっとも激しいものの一つ。たとえ現在第一線で活躍している実力派作家に執筆させたとしても、非常に短い、しかも文章をメインとした作品の中で達成するのは難しい目標だ。この作品は、スタートの時点で失敗を運命づけられていたというべきかもしれない。メーカー側は次回作の制作も視野に入れているようだが、たとえストーリーの質を格段に高めたとしても、「泣かせる」という部分に拘泥する限り、プレイヤーを満足させるだけの水準に達する見込みは薄いと思う。

しかし、短時間での物語鑑賞に特化した作品というアイディアを、一作のみで捨ててしまうのは惜しい。今度は別の視点からアプローチしてみるのはどうだろうか。星新一に代表されるショートショートの名作を集めて一本にするのもいいし、「異形コレクション」のようなホラー競作というのも楽しそうだ。いっそのこと、「萌えるショートストーリー」なんて方向に走ってしまうのも面白いかもしれない。可能性はいくらでもある。力量のある書き手をそろえた新作に期待したい。